「食」と人間の幸福

駒ヶ根ガーデンファーム構想への提言―その4
2001年11月16日、その後加筆
小 原 茂 幸

人間は三時間経てばお腹が空きます。
三日ものを食べなければ人間性が変わるかもしれません。
人間は「食」によって生かされ、「食」のために生きています。
なぜなら人間も生物の一種だからです。
どんなに高級な自動車に乗っていても、
一台数千万円もする外車に乗っていても、スポーツカーに乗っていても、
高速道路での渋滞は平等にきます。
どんなに偉い人でも、どんなにお金持ちの人であっても、
どんなに美人であっても、一定の時間ごとにトイレに行かざるを得ません。
サプリメントやバランス栄養食品を食べていれば、
トイレは不必要というわけにはいきません。
私達の身体そのものが数十億の細胞で構成されています。
その細胞は誕生と死を繰り返しています。
人間は食べなければ生きられない存在です。

2001年9月11日、ニューヨークにおける同時多発テロ事件発生以降、
世界において、見えなかったものが見えてきました。
すなわち、富と貧困、
飽食と飢餓。
先進国と発展途上国。
北と南。
激しい経済格差の中で「力」による正義が推し進められています。
生まれた場所が違えば、主食も惣菜も、人生も運命も変わります。
お米、小麦、ジャガイモ、とうもろこし、ばなな、キャッサバ、等など。
しかし、
いかなる国に住んでいようとも、いかなる内容の食事であろうとも、
家族で、気の合った仲間で、恋人と二人で、
共に汗をかいた仲間で、親戚身内で、
共に取る食事の何と幸せなひとときでしょう。
一緒に食事をすれば、話が弾みます。
美味しいお酒も飲みたくなります。
歌声が響けば一緒に踊りたくもなります。
モノの時代からコトの時代へ。
消費型社会から体験型社会へ。
大きな家にすみたい、かっこいい車に乗りたい。
きれいな服を着たい。
モノの追求には限りがありません。
所有することで幸せを感じようとすれば並大抵のことでは達成できません。
人間の究極の幸せ感、それは食べることにあるのかもしません。

また、頭脳労働だけで取る食事と、身体を動かして、
汗をかいた後に取る食事の違い。
額に汗して働いた後に飲む一杯のお酒のなんと美味しいことでしょう。
私の友人に兼業農家ながら二町七反を耕作する男がいます。
彼いわく、
「何で俺が百姓を続けるかといえばだなあ、
夕食に飲む一杯のあのうまいビール。
あのうまいビールを飲むために汗を流すのよ。」
西洋の童話の中に、お腹が丸々太って、立派なおひげをもった王様が、
大きな食卓のたくさんの料理をナイフとフォークでがつがつ食べる挿絵がありました。
この王様はどんなに卓越したコックさんが手間隙かけて作った料理でも、
おいしいとは思えなかったのではないかと思います。
人間は生き物です。
里から一歩一歩自分の足で登る登山。
自分の足を駆使して、汗をかき、頂上に立つ。
そこで食べる、握り飯一つ、きゅうりに味噌のなんとうまいことでしょう。
身体を動かし、汗をかいたあとに食べるからこそ美味しいのです。
近頃の都会でのグルメブームには何かが欠けている気がします。
頭脳労働者には、味わえない贅沢が、この世には一杯あります。

日本の東京には全国の食材が、世界中の食材が集まります。
距離を越えて、季節を越えて、食材が集まります。
冬にスイカやさくらんぼを見つけることも可能です。
まさに世界の東京です。
ところで、ツバメはなぜ春に数千キロを旅して、わざわざ日本に来るのでしょうか。
一説には、この季節の日本には、
毛虫やあおむしという柔らかく消化の良い栄養価の高い食べ物が、
均一的に存在するからだといわれています。
子育てをするには、とっても良い場所なのです。
四季の変化が乏しい南の国では、あおむしだけを探すのは大変なことなのでしょう。
一番美味しい時、それは旬の時です。
日本は北海道から沖縄まで、気候が違えば育つ野菜も違います。
食材が違えば料理の仕方も異なります。
一つ山を越え、一つ谷を渡れば様々な料理が存在します。
まさに文化です。
この時期のこの地方にしかない食材を活用して、名シェフが腕を振るって作るメニュー。
この時期のここでしか食べられないメニュー。
この空気とこの景色の中で、わざわざ訪ねて行って味わう逸品の料理。
都会には何でもあります。
でも都会では味わえないものが、地方には一杯あります。

「友あり、遠方より来る、また楽しからず哉。」風土に根差した食を求めて、
新しい出会いを求めて、お互いに交流を重ねること。
幸福感の共有。
そこに消費型社会から体験型社会へと導く鍵があるのではないでしょうか。
ガーデンファーム。
人間は誰でも生きている限り食べなければなりません。
自ら食するものを、自らの手で作る。
美味しい空気とうまい水、そして美しい景観。
自分の手で作った野菜や料理、人間は誰でも幸せになれるのです。







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