「市町村合併について」



伊南地域合併によせての提言―その5
2005年2月2日
小 原 茂 幸

 平成15年、伊南4市町村による合併協議が立ち上がりましたが、結果として宮田村が離脱し合併協議は白紙に戻されました。 しかし平成16年5月、政府は新たに合併三法を公布すると共に、 「三位一帯の改革」のもと地方交付税などの大幅減額を実施し、財政改革に本格的に取り組む姿勢を提示しました。 全国における一部の市町村では予算が立てられない程の減額です。 伊南3市町村では行政計画を立てるにあたり、合併も一つの選択肢として新たな枠組みのもとに再び合併協議が進められ、 合併特例法の期限である3月31日までの議決に間に合せるべく、2月27日に住民の意向調査を行うことになりました。

1.人口構造の激変と国境を越えた社会活動が世の中を変えていく
 現在この地球上には63億人の人類が生息しています。 一説に拠れば、1830年世界人口は10億人でした。 1930年20億人となり、1960年30億人、1975年40億人、1987年50億人、1998年とうとう60億人となりました。 人口爆発です。 更に人類は産業革命を経て、地球が数十億年かけて作った石油・石炭などの化石燃料を、ここ数百年で使い果たそうとしています。 そして地球温暖化です。数億年かけてできたアフリカのキリマンジャロにある氷河が、あと十数年で消えようとしています。 北極や南極にある氷河が非常に速い速度で融け出しています。

 一方、東西冷戦後の国際社会は、人と物と情報と資金の流れを大きく変え、 容易に国境を越えていきます(グローバル化)。 更にインターネットなど情報通信の発展が地球を大きな村(地球村)に変えつつもあります。 外国で起きたテロや感染症(サース、鳥インフルエンザなど)が日本の地方にも大きな影響を与える時代です。

 そして日本の人口は1億2600万人。 日本人の合計特殊出生率は1.29人と史上最低に低下し、2006年を境にして人口は減少を始めます。 しかし一方では、2025年まで高齢者は増えつづけます。 世界史に例を見ない急激な少子高齢化社会の到来です。

2.人類は大きな歴史的転換期に立たされている
 産業革命と人口増加は世界を大きく変えつつあります。 20世紀は大量生産・大量消費・大量廃棄のシステムで発展を遂げてきました。 しかし、この経済システムでは地球環境が持たないという事態になりつつあります。 資源消費型社会から循環型社会へ、物質文明から精神文明へ、西洋文明から東洋文明への転換が模索されています。 私達は文明維新とも言うべき大きな歴史的転換期に立たされています。

3.国家財政の赤字が孫子の代まで大きくのしかかる
 日本の国家財政の赤字は719兆円とも730兆円とも言われています。 この財政赤字は東京湾に海底トンネルを掘ったり、本州と四国に三箇所も橋をかけたりした結果だけではありません。 先ごろ富県の区長さんと話しをする機会がありました。 かつて伊那市と合併した富県は人口約5000人。 新山という過疎地も抱えています。 「富県が合併しなければ、中川村とほぼ同じ人口だで、中川村と同じように議会があって役場があって小中学校があって、 文化会館があって社会体育館があって、・・・・・。」 財政赤字は国が作ったものだけではなく、人口2000人5000人の村も都会と同じような環境を提供しようとした結果とも言えます。 その付けが国家財政の赤字(借金)として膨大なものに膨らみ、私達の孫子の代まで重くのしかかろうとしています。 しかも、この借金を少子高齢化の中で解決しなければなりません。 私達の時代に作った借金なら、私達の時代に何とかしたいものです。 先送り先延ばしでは国家が破産します。

4.50年前、地域経済は地域内で循環していた
 今から50年前の昭和30年頃までは、大鹿村など地域の経済は地域で循環していました。 地域の田畑や山で採れたものを食糧とし、燃料も地域の木材が主体でした。 自転車が主流でオートバイ、自動車はまだまだ贅沢品でした。また、化学肥料は少なく、 ごみや糞尿は地域の土に返され、山から運んだ落ち葉が有機肥料でした。 職場も生活も村内で済みました。テレビよりもラジオが主流の情報源でした。 高校進学者は少なく、大学進学者は極めて希でした。

 ところが現代は、農協のスーパーにトンガ産の南瓜が並び、中国産の椎茸が並び、タイ産のオクラが並ぶ時代です。 冬でもアイスクリームが売られ、西瓜が売られています。 コンビニでは24時間物が売られ、中東紛争による石油危機は即刻マイカーのガソリン価格に影響されます。 テレビは24時間全国や世界の番組を流し続けています。 そして全国平均で高校生の8割が進学する時代です。 更に地方では少子高齢化が全国平均以上に進んでいます。

 地域経済が世界経済と深く連関し、少子高齢化する現代において、 従来からの社会経済や伝統的な規範はことごとく変化を余儀なくされています。 必然的に人々の生活様式や質も変化せざるをえません。 過疎地域が自立する道は極めて困難を伴うと言わざるを得ません。 すでにこの時代において、何処にも無い独創性と強力なリーダーシップ、一丸となった協働の力の元に、 全国に通用するブランドが出来上がっていれば話しは別ですが・・・・。

5.大きな政府から小さな政府へ、権限移譲と受け皿の育成
 世界は激動しています。ヨーロッパは国を超え、民族を超え、言語を越え、過去の歴史を越えて、EUとして連合を組みました。 アメリカ合衆国は、自由と民主主義の基に、世界の警察としての役割を更に進めようとしています。 更に中国の発展は世界に大きな影響を与えつつあります。

 今回の合併問題は財政問題です。 今のままでは日本の国家が破綻します。 あと10年もすれば日本の高度成長を担った団塊世代が押並べて年金を支給される時代が来ます。 その時には国がもちません。国が地方へ権限も財源も移譲しようとしています。 また激動する国際情勢の中で、明治維新以来の官僚主義、中央集権体制では、もはや存続不可能だともいわれています。 国が破産すれば大きな痛みを伴う事は必至です。 財政改革、行政改革は待った無しの状況です。 市町村合併の後には道州制の導入が検討されています。 大きな政府から小さな政府へと転換が求められています。 いわば官僚と議会の大リストラが求められているのです。

 地方から国を変えていく時代です。 そのためには、地方は権限委譲の受け皿としての基盤整備など、行財政改革が求められています。 小さな自治体では人材育成も乏しく、職員が兼務兼務では良い仕事ができるとは思えません。 効率の良い議員定数も求められています。議会を補う審議委員会制度の模索も始まっています。

6.自治体(地域)経営の時代、そして地域間競争の時代へ
 日本を変えていく、私達の未来を変えていくためには地方が元気になり、地方が国を変えていく力を持たなくてはなりません。 限られた財源の中で、地域を運営して行くためには地域経営とも言うべきマネージメントが必要な時代です。 この地域の持っている特色を鮮明にし、広域的な連係を図り、異業種間で目標を共有し、 地域のブランドを作り、官民一体となって地域振興に勤め、財源を確保していくことが求められています。 とりわけ人材育成は急務です。なぜなら街づくりは人づくりに他ならないからです。 そして産業振興、雇用問題が当面の最大課題だと思われます。雇用問題は財政問題に通じ、雇用は最大の福祉でもあります。 国は意欲のある自治体に優先して援助をしようとしています。いわばモデルケースを、突破口を必要としているのです。

 公害、産業廃棄物、ゴミ問題などが社会的費用(ソーシャルコスト)だとすれば、 社会資産(ソーシャルキャピタル)は、道路や橋、学校や病院から、今やそこに住む住民そのものだといわれる時代になりました。 すなわち、この地域に多種多彩な能力を持った住民がどれだけ居るか、どれだけの能力を持った人が住んで居るのか、 さらに社会性を持った住民がどれだけ住んでいるか、 そしてそれぞれの能力を持った住民がいかに連携(ネットワーク)しているかが、社会的財産だといわれています。 地域を良くするためには私たち住民自体が学ばなければならないのです。

7.協働の時代とは
 協働の時代だと言われて久しい時間が経っています。地域作りは行政に任せておけば良い時代は過ぎ去りました。 行政だから出きる事、出来ない事、企業だから出きる事、出来ない事、NPOだから出きる事、出来ない事、 ボランティアだから出きる事、出来ない事、それぞれの立場で地域創造の為に力を合わせていくしかありません。 今までのようなお任せ民主主義では、地域が生き残る事はできません。 自分達の生活環境は自分達で守り育てていかなくてはなりません。 自立を目指すのであれば、自立する道は自分達で模索しなければならないのです。 自分達で学び研究し検討する時代です。合併の道も、自立の道も、全て行政頼みということほど無責任な事はありません。

 行政と市民は対等な立場にあります。 場合によっては市民のほうが情報収集能力も対処能力も上だという場合もあります。 官民一体となって地域経営をする時代です。 難解な行政用語は解かりやすい言葉に変えて行くことは必要な事ですが、市民自らが学び研究しなければならない事も事実です。

8.夢を描ける道はどちらでしょうか
 一概に、合併をすれば全てが解決する、合併をすれば楽になるというものではありません。 合併をしても自立をしても、地域にすむ住民が地域造りに知恵を出し合い、汗を出し合い、ヅクを出し合い、 努力をしなければならないことに変わりはありません。 しかし、どちらの選択のほうに夢が描けるのでしょうか。 自立の道は削減、縮小、減少、切詰めをするしか道はありません。 結果として、高額の負担とサービスの低下を覚悟しなければなりません。 合併をすれば市長村長など三役が減ります。議員も減少します。事務部門の効率が図られます。 更なる行財政改革は進めなければならない事は当然です。 これからの行財政においては、投資効率をふまえた効果のある政策とその評価、 あるいは情報公開とチェック機関は必須のものと考えます。

9.故郷が無くなるのでしょうか
 合併をすればふるさとが無くなるという方がいます。 中川村は今から47年前に南向村と片桐村が合併して誕生しました。 その後、片桐は無くなったのでしょうか、南向は無くなったのでしょうか。 大草も葛島も残っています。合併すれば今までどおりお祭りができるのかと訊ねる方もいます。 この地に人が住んでいる限り、生活は継続されます。 合併は強制移住を強いるものではありませんし、地域が消滅する事でもありません。 今回の合併の是非に対する住民投票は18歳以上の方々を対象にしています。 私の父は、かつてこう言っていました。 「都会へ行った若者達が、やっぱ生まれたこの場所が一番良いわと言って、帰ってくるような環境作りをしにゃあいかん」と。 厳しい雇用環境の中で、どれだけの人が生まれたこの地に戻って来られるのでしょうか。 自立を勝ち取れば、子供達は故郷に戻ってくるのでしょうか。


[合併後の夢(私が考える夢)]
▽21世紀は環境の時代だといわれています。 食糧やエネルギーの地域自給。 省エネやゴミ問題における循環型社会への模索。 これらは人類に共通する、差迫った課題であり、この課題を解決できる「鍵」がこの地域には有ると思われます。 この地域を世界一の環境都市、世界一美しい街にしたい、この地域を環境都市のモデル地域としたいという夢があります。 すなわち、食糧の地域自給、地産地消。 エネルギー自給のための省エネシステムと自然エネルギー活用への模索(ミニ水力発電、バイオマスなど)。 ゴミ問題における循環型社会への模索。更には消費型社会から体験型社会への転換など。 人類が抱えている大きな課題を解決する糸口がここにはあるのではないか、と考えます。

▽この地域における環境の豊かさには非常に大きなものがあります。 小渋ダムから中央アルプスまで、高烏谷山からシオジ平まで、 二つのアルプスとその間を流れる支流そして天竜川が作り上げた河岸段丘。 中川村渡場の梅は正月前後に開花しますが菅の台では四月中旬です。 中川村葛島の発電所の桜は三月お彼岸前後に開花しますが千人塚や駒ヶ根高原ではゴールデンウィーク前後です。 ここは一年を通して花が咲き、四季折々の変化の美しい地域です。 これら美しい景観と自然の多様性、古来より培われた風土や歴史・文化、あるいは伝統芸能や食文化。 この地域が持つ価値や宝物を共有する事によって地域の力は更に高まり、これらの価値は更に大きなものとなります。

▽これからの時代は多様性を組み合わせ加工して演出する時代だともいわれています。 「美しさ」には人をひき付ける力があります。 たとえば駒ヶ根市の観光資源、飯島町の農業資源、中川村の自然環境資源を有機的に結びつけ、 食農(グリーンツーリズム、産直市場、農業体験施設、ガーデニング、ファーミング、農産物加工品製造など)と 環境ビジネス(ミニ水力発電、太陽光発電、バイオマスなど)との組み合わせにより、特色ある地域を創造することが可能になります。 環境を中心に据え、農業、林業を基盤に置き、商業的な価値を高め、観光業を発展させ、 異業種であっても進むべき方向を同一のものとして、 地域のブランドを築き上げ、交流人口を増やす事により定住人口を増やし、 誰もが訪れてみたい街から、誰もが住んでみたい街へと発展させることができます。 また、製造業の空洞化が危惧される時代において、誰もが住みたい街作りは、 知識集約型産業、研究開発型産業といわれる工業においても優秀な人材が確保できる基盤造りができるものと考えられます。

▽翻って福祉行政において、少子高齢化により年金保険、介護保険、健康保険の将来が危惧されています。 保険とはリスク(危険)分散です。 少ない人数でリスクを負担すれば一人当りのリスクは大きなものとなりますが、 より多くの人数でリスクを分散させれば、少ない負担で大きな保証が得られることは自明の理です。 合併により行財政の効率化を図り、減少する財源を有効に活用し、健康で生きがいの有る街作りを目指したい。 世界で最も長寿な国は日本です。 日本で最も長生きの県は長野県です。長野県の男性は全国1位、長野県の女性は全国で4番目に長生きです。 なぜか、そこには予防医療を中心にした地域医療の整備と、 生涯現役としての生きがいのある生活があるからだといわれています。 さらに教育の場においては、全国に先駆けて特区構想にて駒ヶ根市が実施している子供課の行政サービスが広げられます。 少子高齢化社会において、教育は大きな役割を担う事になるでしょう。

▽農業を基盤として、美しい環境作りを行い、私達の手で美しい郷土を造ることに力を合わせたとき、 地方と都会を結び、地方と世界とを結ぶ壮大な夢が生まれます。 新たな可能性と希望に満ちた新しい枠組みが求められる時代です。 また伊那谷全体の発展無くして地域の発展はありえません。 広域的な連係を深め、「南信・南信州」といったブランド作りの為に積極的に取り組んでいきたいと考えます。 この地域を100年後には日本で一番美しい街にしたい。 300年後には世界で最も美しい街にしたい。 その可能性は十二分に有るものと確信しています。


▽進化論の世界では、「生残った生物は力の強いものではなく大きなものでもなく、 環境変化にいち早く対応できたものが生残ることができた」、といわれています。 時代は激しい勢いで変化していきます。企業経営の世界ではスピードが重要視されています。 まごまごしていればバスに乗り遅れるどころか、大津波が予測されているのに何の手も打てない状況になりかねません。

▽一人で持上げられる神輿には限度がありますが、三人四人で持上げる神輿は大きな神輿となります。 一人で見る夢よりは、三人で力を合わせた夢のほうが大きな夢が描けます。 一本の矢より三本の矢のほうが折れにくい事は歴史が伝えています。 今さえ良ければ、自分達さえ良ければ良い、という偏狭な考えではなく、 大局的見地に立って、地域が協力し合って、知恵と力を出し合い、協働して戦略を練る時代が来たと言えます。 まさに地域経営とも言うべきマネージメントが必要になっています。

▽この度の選択は地域住民にとって100年に一度の大きな選択になるものと思われます。 私達が置かれている時代背景と位置を考え、次代を担う子供達のためにどのような環境を残していけるかは、 この時代に生きる私達の重大な責務です。 縄文時代から受け継いできた、この地におけるDNAや歴史的遺産をどのようにして継承し、 世界の中の日本、地球村に住む一員として、この地域の30年後の子供達にどのような未来を残せるかの重要かつ大きな選択の時です。 Copyright 2005 Shigeyuki・Ohara











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