「駒ヶ根市における緑の課題」



駒ヶ根市「みどりかいぎ」に寄せて
2003年8月15日
小 原 茂 幸

1.プロローグ
駒ヶ根市は二つのアルプスと天竜川による豊かな景観と自然を保持するまちです。 中央アルプスから天竜川に広がる扇状地、その河岸段丘を横切る田切構造、 そして伊那山脈から流れる支流による起伏に富んだ景観など、 すばらしい自然が残されています。 また吉瀬ダム付近の海抜516mの地から、 菅の台、池山、中央アルプス駒ヶ岳2956mに及ぶ高低差に富んだ植生豊かな地でもあります。 さらに稲作を中心にして長い歴史によって培われた地域の文化が在ります。 春夏秋冬、四季を通じて、この自然がかもし出す景観と田園風景がもたらす環境は、 箱庭的とは言え、全国に誇れるものだと感じます。


2.中心市街地、及び身近な生活空間における公園、緑地などの不足の課題

・住環境を考える中で最大の問題点は身近な生活空間に公園、緑地、里山、並木、樹木などみどりが少ないことです。 車を使わなければ行けない場所にある公園ではなく、 少子高齢化社会において、子供が安心して遊べる公園、高齢者が気軽に集える公園、 あるいは幼い頃から水と親しめる公園、さらには車に頼らずに、歩いて行ける道路の整備が求められています。

・ドイツにおけるスポーツクラブの発展は、国民の成人病に対する対策からだといわれています。 市民の健康保持のためにも、ゲートボール場、マレットゴルフ場、スポーツ公園の整備のみならず、 遊歩道、登山道、トレッキングコース、サイクリングロード等の整備が望まれます。

・21世紀は癒しの時代だと言われています。園芸や森林がストレス解消に効果があると実証されつつあります。 園芸福祉という概念や、森林の持つ癒しの効果を再認識し、学校、病院、公共施設には積極的に花とみどり、 森を組み込むことが求められています。

・二つのアルプスがみえる、というわりに登山あるいは登山者に対する整備やおもてなしが少ないと感じます。 登山道の整備、山小屋の整備、展望台の整備、さらにはガイドの要請なども必要だと感じます。

・家庭とは家という字と庭という字が組み合わされています。 家を建てても庭を造らなければ家庭ではないともいわれます。 一戸一戸の屋敷の環境を整備し、屋敷林、生垣、ガーデニングによる住環境の整備を助成、促進したいものです。


3.環境、みどりを中心にした都市計画の課題

・市街地における道路の並木、街路樹、緑地帯、公園、グリーンベルト、 あるいは河川の並木による緑地化、河川公園、など、みどりの環境計画を明確に行い、 植生にあった樹木の選定と、維持管理の方法など基盤整備を進める必要性があります。

・樹木には寿命が100年200年500年さらには1000年を数えるものもあります。 ひとたび植えられたならば自ら動く事はできません。 植樹するにしても植生を考慮し、その木の持つ寿命を保証するものでなければならないと考えます。 枝垂桜を植えるならばその間隔を考慮し、ケヤキ並木ならばその樹高と枝張りを考慮する。 高烏谷山の頂上になぜドウダンツツジなのか、サラサドウダンやイワヤマツツジではなかったのか。 広域農道になぜライラックだったのか。アメリカハナミズキも良いが、日本にはヤマボウシがあるではないか。 再考が必要だと思われます。

・駒ヶ根市には「田園都市」の概念がありました。 環境、みどりを考える中で水田の持つ多面的な機能、すなわち保水機能や生物の多様性を育み、 景観を豊かに保つ機能を再確認し、一方で減反政策という市場経済環境を考え、地域の田畑の作物を如何にするかも、 地域の景観保持の為に大きな要素を持つと考えられます。 これは市場価格が低迷する果樹、畜産農業にとっても大きな問題です。 また、安全安心の観点から地産地消が叫ばれ、 さらには化学肥料から有機肥料への転換が求められる中で、里山や林が再び見なおされています。 海辺の漁師が川上に来て木を植える時代です。 自然循環型システムの中で、食とエネルギーの地域自給が求められています。

・駒ヶ根市のかなりの面積が山林におおわれています。 ところが戦中戦後の過大な供給の中で、カラマツ、スギ、マツなどの単一林に覆われ、 さらに経済価値の下落による山林の管理不足により山が荒廃しています。 本来ならば共存できていた鳥獣が、人間にとって有害化する原因ともなっています。 バイオマスなどの促進を図り、複合林に転換するなど対策が求められています。

・駒ヶ根市は中央アルプスの表玄関です。 駒ヶ岳、空木岳という高名な山を抱えています。 近年の熟年層に於ける登山ブームの中でオーバーユースによる山の荒廃が進んでいます。 特にロープウェイのある駒ヶ岳周辺における山岳環境の整備には早急な対策が求められています。

・自然との共生の中で無視できない点の一つに、防災があります。 自然と共存する方法を考える一方で、自然災害に強いまちづくりも推し進めなければなりません。 危険な場所には建造物を造らない、建築を許可しない、気象観測と予報システムを構築すると供に、 自然のサイクルに合った方法で、 災害を回避する手段を考えたいものです。 100年に一度の災害の為に鉄とコンクリートで固めたダムや護岸工事が必要なのかどうか問われてきています。 また、コンクリートの堤防を緑地化するなど、景観に配慮した防災工事が望まれます。


4.みどりに対する維持管理体制の課題

・行政が整備した公園や遊歩道などの管理整備が停滞しています。 作るだけ作って、維持管理は地域の奉仕活動では長続きできなくなりつつあります。 河川維持、道路維持と同様に、みどりの管理維持は社会的費用と認識し、 民間企業、森林組合、シルバー人材センター、NPOなどに依頼し、コストをかけて維持していく仕組みが必要だと考えます。 ボランティアや有志、自治会の奉仕活動に頼るには限界があるものと思います。

・公共の緑地帯、公園のみならず、私有地における巨木の保持、 里山の保持のためのシステムを構築することが望まれます。

・少子高齢化の中で、農業従事者の高齢化並びに後継者不足が急激に進んでいます。 後継者が居ない、長男は都会で居を構えた等の、不在地主化により、遊休農地、荒廃地が拡大してきています。 所有と耕作を分離する方法や、借地、協業組合、事業組合など様々な方法を駆使し、 農地の維持保全に取り組む方法を構築する必要性に迫られています。

・山林における不在地主化や後継者不足による管理不足を補うために、 森林組合、管理組合、みどりの十字軍、草刈隊などのシステムを作ることが求められています。


5.環境、みどりに対する住民意識の格差是正と啓蒙の課題

・サクラは花が咲くときは愛でるが、花のないときは邪魔者扱い、という事があります。 やれ日陰になった、やれ毛虫が発生した、やれ落ち葉がアマトヨに詰まった、落ち葉を誰が処理してくれるなど。 またツバメは古来より人間と密接な関係を保ちながら生息してきました。 ところがツバメが巣を作ると家が汚れる、糞に虫がわくなど、ツバメを追い払う人も増えてきました。 水路の三面張りもサカナやカニや昆虫が住めなくなったと嘆く人が居る反面、効率的で良いという人もいます。 人間は自然の一部であり、いわばビオトープの中に組み込まれて生きられる存在である事を再認識し、 環境教育の基、快適な住環境を創造する中で、環境と人間、自然と人間、等の係わり合い方を学び、 自然との共生の意識を高めて行く必要があります。

・人間は生物の一種です。人間が生きていくうえには、水と空気と食糧が必要です。 とりわけ食糧に関しては他の命をいただいて、自らの命を存えさせています。 人間は自(みずか)らの手によって、自ら食する食糧を育ててみる体験を通じ、自ら生きることを学ぶべきではないかと考えます。 同時に、人間より遥かに長生きする樹木を育てることによって、学ぶことは多多あるものと思います。

・雪月花、花鳥風月、白砂青松、桃源郷など、かつて日本人は自然と溶け込み、 自然の大きな流れの中で暮らしてきました。 現代は、自然に対峙してきた西洋文明が破綻し始め、自然と共生してきた東洋文明が見なおされつつあります。 先人達が営々として培ってきた文化や歴史的資産を継承し、 地域の風土に根差した暮らしをする事が循環型社会の原点ではないかと考えます。 先人達の声を聞き、そこから新しい未来への遺産を築く事が私達の使命でもあります。

・バブル崩壊後、全国の地価は下がりつづけています。 ところが逆に資産価値が上昇している地域もみられます。 それらは押しなべて、森とみどりを中心にした住環境の整備を行った地域だと言われています。

・愛知県足助町。 かつて江戸時代に植えられたサクラとモミジが、数百年経った今、子孫の住環境に貢献し、 産業基盤になろうとしています。 私達も、天竜川の桜堤、駒ヶ根高原の桜と紅葉など、 胡桃の里、辛夷の谷、アカシヤの丘、ブナの林、山桜の里、ほうの山、1000年の森など、 この地に適した未来への遺産を創造しようではありませんか。


6.21世紀、時代と世界情勢が求める環境整備への明確な理念と方針の設定

・地球上における人類は約60億人。現在、人類の2/3は飢えの中にあります。 そう遠くない将来、人類は大規模な水不足、そして食糧難に見舞われる事でしょう。 また、地球温暖化による影響で、この100年の間に海面が1mから5m上昇するかもしれないといわれています。 食とエネルギーとゴミは地域自給、地域処理できる、循環型社会のシステム構築が求められています。 さらに、食に対する安全安心の観点からも、地産地消のシステムが求められています。 すなわち、これからの時代は、民、産、官、学などが協働して、 地域の生き残りをかけて智恵と汗を出しあうことが求められる時代になりつつあります。 しっかりとした方針を立て、戦略をねって行動していきたい。 駒ヶ根はただでさえ景観が豊かですが、このまま放置すれば、荒廃と乱開発が同時に進む可能性が大きいと思われます。

・「みどりかいぎ」は、単に公園や緑地の整備にかかわらず、 21世紀をどの様にして生き残るかに関わる大きな要素と可能性を秘めています。 概ね20年後の駒ヶ根市を見据えて計画するにせよ、激しく変化する世界情勢と地球環境の中で、 市民と行政の総力をあげて地域の生き残りのための手段として考えたいと思います。


7.エピローグ

21世紀は環境の時代だといわれています。 大量生産・大量消費・大量廃棄のシステムから自然循環形のシステムへ。 消費型社会から体験型社会へ。脱工業化社会への模索を図らないと地球が持たない時代にさしかかろうとしています。 環境の時代とは、すなわち農業や林業の時代です。 おりしも国の財政破綻により、地方は自らの足で立つことを求められる時代になりました。 地域の自然環境を整え、住環境を整備する事により、「住みやすいまちから住みたいまち」へ、 「一度は訪れたいまちから何度でも訪れたいまち」へ、「行ってみたいまちから住んでみたいまち」へ。 私は駒ヶ根を日本で一番美しいまちにしたいと思います。 美しさには人を惹き付ける力があります。 そのために目標を明確にし、「花とみどりの環境都市」あるいは「森の環境都市」を目指す事が、 ひいては地域の自立に繋がり、次代に生き残ることができる大きな要素になるのではないかと考えます。 (S.Ohara)









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