「市民が主体の「花と緑のまちづくり」への提言」



駒ヶ根市花と緑のサポーター事業に寄せて
2003年6月20日
小 原 茂 幸

1. 時代認識の必要性
21世紀は環境の時代といわれています。環境とはすなわち農業や林業の時代です。 地球温暖化、水不足、食糧難、環境破壊、ごみ処理問題、少子高齢化などの危機、 及び日本の財政状態、産業の空洞化など構造変化による危機を乗り越えるためには、 そこに住む人々が置かれている立場をお互いに認識しあい、情報を共有化しながら、 より多くの人々が持つ知恵と能力と情報力を合わせ、民・産・官・学が同じ方向を向き、 地域の将来のために、いわば「地域の生き残り」をかけて考えなければならない時代が来たと思われます。

2. まちづくりの方向性
古来より、居を構えるにあたっては、自然災害の危険が無く、外敵から守られ、 水と食糧が確保でき、更に快適な場所が選ばれてきました。この理念は現在も変わらないはずです。 しかし、安全で快適な住環境の創造がとなえられながら、全国いたるところで、大河の傍に家を作り、 がけ下に居を構え、開発という美名の元に自然環境は破壊され、 かえって危険で不快な環境を作ってしまった個所も多々見うけられます。 無秩序な開発(まちづくり)を繰り返してきた結果です。 人類の進歩は、科学技術の進歩等によって格段に生活の場を広げてきました。 さらに、先進国では、戦(いくさ)、戦争など人為的な脅威からも遠ざかりつつあります。 20世紀は戦争の時代と呼ばれました。 これからのまちづくりは、安全はもとより快適さ、居心地のよさ、暮らしやすさ、 そしてそれを支える経済的基盤造りを含めて考えなければならないと思われます。

3. 自然環境整備の重要性
人間は生物の一部です。人体自体が60億ともいわれる細胞でできています。 生きていくためには水と食糧と空気は不可欠です。 ところが、世界的には飲料水が不足し、安全な食物の確保が厳しくなり、 大気汚染によって空気すら買う時代が来るやもしれません。 生物はお互いに、他の生物の命をいただいて生きています。 植物は二酸化炭素を吸収し酸素を生み出しています。 さらに、海辺の漁師が山に来て木を植える時代です。 山のミネラル、有機物などが海の魚を育てていたのです。 人間の生活も自然のサイクルにしっかりと組み込まれています。 人間は食物連鎖の頂点に立とうとも、この世界を構成する一員なのです。 人間の生き方を、そこにある自然の循環システムの中で完結するスタイルに求めなければなりません。 かりに人間だけが生き残るシステムでは、やがて人間も生きられなくなることでしょう。 まちづくりは人間だけでなく、そこに生きる動植物などと共生する方向でなければなりません。 古来より日本民族は自然と共生する「森の民」でした。

4. 持続可能な発展(生き残り)に向けて
駒ヶ根は「二つのアルプスの見えるまち」として、箱庭的とは言え、 豊かな自然が残されている場所であります。 中央アルプス、南アルプスの景観、天竜川、河岸段丘、田切構造など、起伏に富み、 四季折々の自然の恵み豊かな場所でもあります。 また、稲作を中心にした田園都市でもあります。 しかし、景色は良くても、身の回りの、生活する場での緑(公園)は、決して満足の行くものではありません。 豊かに整備された自然環境の中に人間の住環境を創造したいと考えます。 私は駒ヶ根を日本で一番美しい街にしたいと考えます。 森(公園)の中にまちがあり、森の中に家があり、森の中に工場があり、森の中に学校がある。 四季折々の花と、実のなる木。美しいものには人を惹きつける力があります。 身の回りの住環境を美しくする事によって、快適な住環境が生まれ、 惹いては、「行ってみたい町」、「住んでみたい街」としての、知名度や知的資産も上がってきます。 この地で生まれ育った人間が、進学などで都会に行っても、 「やっぱり生まれた駒ヶ根が一番良い」という誇りをもった環境を作りたいものです。 クライストチャーチ、ボストン、南プロバンス、住環境自体が雇用を創造し、 財政基盤を作り、文化を育み、ひいては資産価値を形成する時代です。 地域の活力は、そこに住む人々の能力におうところが多いと感じます。 有能な人々を育て、惹きつけるまちづくりをしたいものです。 これは、美しく豊かな景観をもつ駒ヶ根にとって、決して不可能な夢ではないと感じます。

5. 自然環境整備における「真の豊かさ」
園芸福祉の概念は重要な要素を持ち合わせています。 地域整備を考えるとき、 1.自然環境、2.交通環境、3.医療環境、4.教育環境、5.ショッピング環境が重要なポイントだといわれています。 しかし、最近ことさら自然の持つ多面的効果が着目されています。 U.S.A.西海岸におけるガーデニング産業はベトナム戦争の帰国兵が中心になったといわれています。 また、ニューヨーク少年院に生活する子供たちの更正にガーデニングが大いに効果があるというレポートもあります。 木や花を育てることによる癒しの効果、ひいては「和」の心は21世紀にふさわしいものだと考えます。 消費型社会から体験型社会へ、化石燃焼型エネルギーから自然循環型エネルギーへ。 真の豊かさを求める中で、「花と緑」の持つ使命は大きなものがあります。 それは「花と緑」を育てることは、育てる人自体の「心」を育てることに繋がり、 人間の寿命を遥かに超える木々を育てることは、 人間自体も持続可能な生活スタイルを確保する事に繋がるものと考えられるからです。 かつて、里山、鎮守の森など、森には文化がありました。 文化は親から子へ、子から孫へと継承され、創造されるものでなくてはなりません。 地域造りは人造りからといわれます。 この地を、世界最先端の環境都市として構築し、地球上で最も美しい街を創造するために、 地域における民・産・官・学が協動した取り組みにしたいと考えます。


■駒ヶ根市全域自然歴史公園化構想(参考資料)
▽美しい町に住みたい。たとえば、公園の中に住居が有り、公園の中に田畑が有り、 公園の中に工場が有り、公園の中に商店街があるまち。 たとえば、川を再生し、森を作り、林を再生し、並木を作り、四季折々に花の咲く木を植えたい。 実の生る木を植え、野鳥を呼びたい。 たとえば茅葺き屋根の家や水車小屋が似合う風景を再現したい。 主食である米の確保と国土保全のために、日本の原風景である水田を維持するとともに、癒しの風景を創造したい。 町全体を花で飾りたい。四季折々に「感動」する場を創造したい。

▽美しい公園のような環境に住みたい。美しさには人を惹きつける力があります。 (可愛らしさには人を癒す力があります。)人が集まれば出会いがあり、活気が生まれます。 新しい産業が生まれます。 四季折々に訪ねてみたい、住んでみたい場所を創造する事によって、社会資本も充実してきます。 通年通して人を呼ぶ仕組みを考えてみましょう。 物を生産して雇用や財政を賄うことが難しくなりつつあります。 製造業が日本から中国等へ移転していく時代です。 魅力的な環境を創造し、人を呼んで財政を潤すことに、今一度目を向けてみましょう。 美しい環境は、ここに生まれる将来の子供たちに大きな遺産となるはずです。

▽20世紀が都市の時代だったとすれば、21世紀は地方の時代だと思います。 現在の地球の人口60億人。 やがて人類は水不足の時代を迎え、食糧難の時代を迎える事でしょう。 私達はそれぞれの地域において、「食とエネルギーの自給自足」を図りたいものです。 この地域に住む人々の食料は、この地域で賄う。「地産地消」が理想です。 この地域で消費されるエネルギーはこの地域で調達する。 ミニ水力発電、太陽光発電、バイオマスなど。 自然に負荷を与えない循環型システムが求められています。 安全な食と安全な水ときれいな空気は、豊かな自然からの贈り物です。 現存する豊かな自然環境を活用すると共に、失われた自然環境を再生し、 住環境そのものが自然と人間が共生し合う場として、駒ヶ根市全域を自然公園化したいと考えます。

▽人類が生きていくためには「呼吸」と「飲食」は不可欠です。 人類は地球上の生物の一種であり、他の生物との共生を抜きにしては生きられません。 化石燃料や農薬、抗生物質や成長ホルモン剤などを必要とした時代から、 自然の循環のままに生きられるシステム作りが求められています。 それは同時に消費型社会から体験型社会への転換も求めています。 「他人より大きな家に住みたい。他人より高級な車に乗りたい。 他人と違ったものを持ちたい。」「モノ」を所有する事によって得られる幸福感には限りがありません。 「モノより時間」、「お金より思い出」。 音楽、スポーツ、芸術、旅、・・・。 「食」と「農」と「芸(技)」が有機的に一体化した街を創造し、駒ヶ根市全域を歴史公園化できたとしたら、 資源消費型社会、環境破壊型社会から決別できるのではないでしょうか。

▽街造りの主役は、そこに住む一戸一戸の人々です。私達の街をどうするか、 一つの方向を定め、一定のルール(条例)のもとに、街造りの夢を共有していきたい。 この街に住む人々の幸福感をもって、この街を訪れる人々を幸福にしていきたい。 私達の世代でできなければ、子供たちの世代に。 子供たちの世代でできなければ孫の世代に、この夢を託したいと思います。(S.Ohara)









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