鉄腕アトムとユニクロ(雇用をどうする!)
2002年10月25日
小 原 茂 幸
私が24歳のとき、退社してインドネシアに旅に出ました。 東京の大学を出て、TVCMも流れる某社の京都支店に2年間勤務。 職場を捨てての旅立ちでした。 その時、母の実家、専業農家の伯父がこう言いました。 「おめえなあ、インドネシアちゃあ、地図で見りゃ、 下のほうにあるで、行くなあ簡単だぞ。 落ちてきゃあ、いいでなあ。 帰ってくるなあ、たいへんだぞ。 登ってこなあ、ならんでなあ」と。 その伯父さんが、あるときこうも言いました。 「おめえたちの将来はいいぞ。 働かなくてもよくなる。 鉄人28号とか、鉄腕アトムとかロボットがみんな働いてくれる。 人間は働かなくてもよくなる。 良い時代になるぞ。」と。 1999年、ユニクロから出た1900円のフリース。 エディバウワーとか、ランズエンドとか、 U.S.A.メーカーのものと変わらない製品が3分の1の値段。 なぜ、こんなに安くできるのか。 答えは中国にありました。 卓越した技術指導の元に、人件費の安い中国で全てを生産する。 日本全国にユニクロ現象が巻き起こりました。 その後、製造業の日本からの海外移転に拍車がかかりました。 いわゆる産業の空洞化です。 私は、ユニクロの品揃えを見た時、 伯父さんの言葉を思い出しました。 「ロボットが働いてくれる時代が来る。 ロボットが物を作り、ロボットがサービスをしてくれる。 人間は働かなくてもいい。」 ふと、大きな疑問が出てきました。 「でも、人間はどうやって、商品を買い、サービスを買うの?」。 より人件費の安い場所へ、 より人件費の安い国へ製造業は移転して行きます。 韓国へ、台湾へ、マレーシアへ、フィリッピンへ、中国へ、・・・ 最終的にはロボットが作る日が来るかもしれません。 ロボットが作るのであれば、日本にロボットを置こうと、 マレーシアにロボットを置こうと同じことになります。 消費者の利益から考えれば、 より良い商品がより安く買えれば、こんなに良いことはありません。 でも、商品を買うお金はどこから稼いだらいいのでしょうか。 雇用がありません。 工場がみんな海外に行ってしまったら、雇用が無くなってしまいます。 消費者の利益か、国民の利益かを考えなければなりません。 島国である日本は、資源もマーケット(市場)も海外に求め、 優れた製品を海外に輸出する事によって、 1970年代1980年代、世界の工場として発展してきました。 人類60億の2パーセント、1億2千6百万人の日本人が、 世界の穀物市場の10パーセント、 世界の森林資源の20パーセント、 世界の海産物の30パーセントを輸入しています。 これが出来るのも、主として日本の製造業が頑張っているからです。 なのに、その製造業が日本では成り立たなくなりつつあります。 いくら安い商品が海外から入ってきても、 それを買うお金はどうするのでしょう。 職場が、雇用が減少してきています。 サービス業は究極のところ、お互いの靴の磨きあいです。 同じ島の中でサービスしあっていても、外から物を買えません。 「雇用をどうするか」これこそが、最大の課題ではないでしょうか。 これからはグローバル化の時代だと猫も杓子も言います。 地球規模で考えたら、 利益追求を最大目的とする企業は、 人件費が高く、 輸送コストも高く、 電力もガソリンも高く、 利益の半分を税金として収めなければならない日本に、 あえて工場を、本社を置く必要はなくなってきます。 税金が安く、 設備投資も簡単で、 安い賃金で意欲的に仕事をこなす、優秀な労働力がある国へ、 ましてや、そこに巨大なマーケットがあるとすれば移転して行ってしまいます。 雇用や設備のリストラをし、 工場を移転してでも企業は生き残って行く事でしょう。 日本企業は生き残れても、日本は? 世界の工場は、産業革命発祥の地イギリスから、 アメリカの東海岸へ、そして西海岸、 東西の冷戦構造の中で、海を渡って日本へ。 21世紀は中国が世界の工場となろうとしています。 冷蔵庫や洗濯機という、 いわゆる白物と呼ばれる家電製品が、1000万台単位で売れる国。 携帯電話が1億台以上稼動し、 国民の半分が利用するとしても6億台が売れるかもしれない国。 ここ中国で作れば、日本の買い替え需要などは問題ではありません。 現にブラウン管のテレビは既に日本国内では作られていません。 また、技術は日本で占有率No.1であっても、 世界市場で多数を占めなければ、 数の論理の下では敗者になる可能性が高くなります。 13億人のマーケットを持つ中国が、21世紀の世界の工場になろうとしています。 さらに世界最大人口を要するアジアをまとめた場合、 ここで生産されたものが世界標準になる可能性すらあります。 日本の雇用をどうしたらいいのでしょう。 既に日本の地方は空洞化の波にさらされています。 せっかく造成した工業団地や流通団地が売れなくなっています。 せっかく誘致した企業がリストラ、廃業になるケースも増えてきています。 先日、サンヨー電気の井植会長の講演をお聞きしました。 イギリスにある従業員300人の工場を、 ユーロとポンドとの兼合いから閉鎖を決めたところ、 イギリス政府から連絡が入ったそうです。 「ブレアー首総が直接話をしたいといっている、 ついては何時一過、どこそこに居て、電話で話せる状況にしてほしい。」 とある日の夕方、ブレアー首総と直接話をされたそうです。 「世界的に名が通っている会社が撤退するのはイギリスの不利益である。 閉鎖を決めた要因は何か、労働環境か、流通環境か、エネルギーか、 それぞれ項目を検討して、それぞれの担当大臣に直接話をして下さい。 それで解決できなければ、直接私に話をしてください。」 今、世界はこういう時代だという、お話しでした。 今、全国の到る所で工場が閉鎖されています。 そこの市長村長、県知事がどれだけの行動をしているのでしょうか? 21世紀の日本の新しい雇用を創造しなければ、 一部の人々だけで、より多くの扶養家族を養わなくてはならなくなってきます。 特に、次代を担う若者の雇用を創造しない限り、 600数十兆円の赤字をどうやって返済して行くのでしょう。 景気の6割から7割は個人消費だといいます。 稼ぐ当てが無くて、どうやって購買意欲が沸いてくるのでしょう。 先進国の中で「ウサギ小屋」ともいわれた住宅環境。 いくら安いからといって買い求めても、 狭い住環境のなかでは、ごみを増やすだけかもしれません。 今はごみを処分するにもお金が要る時代です。 痛みを伴う構造改革が成功すれば、 景気が回復し、雇用が創造できるのでしょうか? 21世紀は国際分業の時代だといわれます。 日本、中国、韓国、アセアン等が結束し、 東アジア経済圏としてユーロ並の地域経済統合ができれば、 物価、賃金が安定し、解決の道が見えてくるのでしょうか? それとも日本の財政が破綻し、円が急落。 1ドル300円、400円になったところで、 輸入品が割高になり、 国内の製造業が復活し、雇用が創造されるのでしょうか? 鉄腕アトムが誕生したのは西暦2003年4月7日だそうです。
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