多様性とネットワーク
講演会原稿
2002年10月25日
小 原 茂 幸
この世にはなぜ男と女が居るのでしょうか? 男性と女性、オスとメス、雄株と雌株、雄花と雌花。 種族の繁栄のためなのでしょうか? 数だけ増やそうとするならば、アメーバのように自己分裂し、 クローンを作ればいいはずです。 なぜ、二つの性を作って、様々な方法で交尾を繰り返すのでしょう? 生物の歴史は、ウィルスや病原菌、紫外線、環境変化などとの闘いでした。 中世のヨーロッパなどでは、 ペストなどの伝染病によって村の人口のほとんどが死亡したり、 新大陸からもたらされた新種の病原菌によって、 免疫が無かったために、多くの人々が命を落としたりしました。 昨今ではエイズウィルス。 まだ、治療薬が作られていません。 このエイズなのですが、 エイズ発生の地といわれるアフリカで、 明かにエイズに感染しているにも関わらず、 発病しない人が5パーセント程いるのだそうです。 生物がなぜ両性に別れて様々な営みを繰り返すのか? その答えは、「多様性」ということのなかにあるようです。 10人の人がいて、8人がペストで死んでも2人は残る。 紫外線が多くなって、多くの生命が奪われても、いくつかの生命は残る。 みんな同じ性能や性格のものばかりであれば、 何らかの病原菌で全滅しかねません。 様々な種類を作り、増やしておく事によって、 種は生き残ることができるのです。 人間社会も同じことが言えるのではないでしょうか? 危険に満ちた未知なる土地を旅する勇敢な商隊がいました。 あるとき大きな山にぶつかり、右に行くか左に行くかで迷いました。 全員が同じ道を辿って同じ危険に遭遇するよりは、 二つに分かれたほうが、どちらかが生き残るチャンスは増えます。 この時点において臆病者も必要になるかもしれません。 そこに留まったものだけが生き残る事もあります。 あるいは、右からくる危険には左の人が対処し、 左からくる危険には右の人が対処する。 様々な方向からくる危険に対して、 それぞれの能力や個性を持ったものが対処して行く。 皆同じ能力や考えでは、一時的には大きな力を発揮できるのですが、 より大きな力を持ったものが登場すると、 打ち勝つ事は難しくなります。 同じ太さであれば一本の丸太よりは、 細くてもしっかり束にした3本の丸太のほうが強そうです。 様々な能力や個性、考え方を持つものをより多く抱える事により、 生き残るチャンスは増えていきます。 学校などに行くと、 「個性を伸ばす」とか「個性をたいせつに」とか掲げられていますが、 なぜか皆同じでないと仲間はずれにされてしまう、ともききます。 多様性を認めること、多様性こそが大切であると思います。 そして様々な能力、個性、考え方を持った人々が、 一つの方向に向いて歩き出すとき、 より大きな力が生まれるのだ思います。 単品種を大量に生産する事がメリットであった時代から、 今はデメリットに変わりつつあります。 供給過剰(デフレ)、豊作貧乏、自然災害による全滅、の時代です。 情報化の時代にあって、競争はますます激しくなり、 売れるとなれば、世界のあちこちで生産される時代です。 危機回避、危険分散のためにも、 小量を多品種生産する事が重要になってきています。 かつて製造業では、1回ヒット商品が出れば5年は楽ができたといいます。 今は3ヶ月と持たないそうです。 売れるとならば、似たような商品が、 あるいはそれ以上の製品がより安い価格で出てきます。 情報がすぐさま世界中を飛び交って行くのです。 かつてパソコンを買うときにはボーナス商戦を終えた頃が買い時でした。 価格が安くなって在庫処理に入ったからです。 ある時期から、人気があっても在庫がない、 注文があっても製造しなくなりました。 一定のロット生産をして売りきっていく方法です。 在庫処分として安売りするくらいなら少ロットで売りきる。 在庫を抱えているうちに、 性能の良い他社製品が出てくればますます在庫になってしまう。 開発の早さと、情報の早さが、メーカーを変えていきました。 更に、観光地における黒川温泉、長浜、川越、小布施、 多様性をネットワークすることで成功しています。 インターネットにおける楽天市場も同様です。 21世紀は多様性をネットワークする時代ではないかと考えます。
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